中国はECとデリバリー業界が世界トップに君臨するまでに成長し、とにかくなんでもオンラインで注文ができ、お腹が空いたらクリック一つで届けてもらえます。これはすでに中国国民の生活に欠けない存在になりつつあります。
しかし、生活の利便性を享受している一方で、これらが及ぼす環境への影響は、大きな国の課題になっています。
今回は、筆者が中国で生活しながらの経験を交えて、中国の成長する業界に潜む環境への影響に対する取り組みについて取り上げてみます。
成長を遂げる業界とゴミ問題に対する政府の対策
中国は、かつては欧米や先進国からのゴミを輸入していた、世界一のゴミ輸入国でした。だが、現在は政府がゴミの輸入を禁止しています。
https://resource.co/article/china-ban-all-imports-solid-waste-2021
そこで、欧米諸国などはそのゴミを、現在ではベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアといった東南アジアへとシフトしている現状となっています。
しかし、海外からのゴミ輸入は禁止しましたが、中国国内のゴミにおいては問題が多く残っています。
特にその国内のゴミ問題を深刻にしているのが、ものすごいスピードで成長を続けるフードデリバリーサービスと、ECサービス業界です。
そしてそれらの業界から排出されるゴミは、中国国内のゴミの大半を占めています。
中国ECの成長ぶりは有名で、日本でもたくさんの企業が中国のメジャーなプラットフォームへ出店しています。
その成長ぶりは著しく、2005年には、世界の1%にしか満たなかった中国の世界でのEC市場が現在では44%を占め、8年間連続で世界トップに君臨している程なのです。

2019年には、天猫, 拼多多,淘宝, JD(京东)といった中国のトップECプラットフォームだけで、GMVは世界の42%を占めており、成長のとどまるところを知らない業界ですが、同時に多くのゴミを排出しています。
毎年、1千万トン以上の包装ゴミを中国国内で生み出し、そしてそのうちの23%はリサイクル不可能と言われています。悲しいですが、終着点は、限りのある埋立地または焼却です。
中国のECプラットフォームや物流では、主に4つのタイプの包装を使用しています。
プラスチック製の袋、ダンボール、布バッグ 、OPP袋 (Biaxially–Oriented Polypropylene bags)です。

中国国家郵政局(State Post Bureau) の統計では、80%の紙やダンボール素材はリサイクルできるが、
ほとんどのプラスチック素材は完全には再利用できないとされています。
現在のペースでは、2025年までにEC業界が生み出すプラスチックゴミの量は、4130万トンになると見込んでいて、これは、アメリカ全体が2018年に生み出したゴミ全体の量より多いとされています。
そこでゴミを減らし、リサイクルを効率的に行うため、中国政府は新しい政策を導入しました。

2021年の4月には中国の国家郵政局(State Post Bureau)は過剰包装を取り締まるため中国全土でキャンペーンを打ち出しました。中华人民共和国国家发展和改革委员会(National Development and Reform Commission of the People’s Republic of China)もまた新しい政策を設定しました。

それは、バイオ分解できない製品の使用と生産、使い捨てプラスチック製品を禁止するもので、今後の5年で徐々に施行し導入される予定です。
これらは、EC業界とデリバリー(テイクアウト)業界に向けて集中的に行われる予定です。
そのため、この特に二つの業界では、この政策に対してどのような取り組みが行われているのか見て見ましょう。
EC業界の環境への取り組み

中国のEC業界ではこのゴミ問題に対して、何もやっていないかというとそんなわけではありません。
アリババは菜鸟という物流会社を所有していますが、環境への取り組みは業界の中では早く、2014年に包装ラベルのステッカーのサイズを小さくしました。そしてその取り組みの甲斐あって、 2014から2020年の間で430兆のシートの紙を節約したとされています。

また、菜鸟部分的にバイオ分解可能なバッグの使用を試験的に導入しています。
そして、各地に80000以上のリサイクル回収ビンを設置し、消費者が、アリババを利用して購入した際の包装ゴミを回収できるような取り組みを多くの物流会社と手を組み行っています。


京东(JD.com)は 薄くてバイオ分解可能なテープを導入し、再利用できる包装箱を導入しました。また、ユーザーがオーダーする時に、再利用可能な包装を選択できるようになっています。この通常の包装箱よりも10倍再利用が可能な”Green Bok”と呼ばれる包装を選択すれば、ユーザーはロイヤルティーポイントをもらう事ができのです。
https://jdcorporateblog.com/jd-com-launches-new-reusable-package-initiative/
テイクアウト(フードデリバリー)業界の取り組み

特に深刻なのは、毎年油まみれになったゴミを生み出しているフードデリバリー業界です。
中国は、現在では世界トップを行くフードデリバリー大国です。その市場価値は、急性成長の数年間を経て2020年には515億ドルと推定されています。
その市場状況は2大企業、「美团」と「饿了吗」が独占しており、毎年、1千万にもおぶフード配達が中国全土で行われ、結果包装のゴミを生み出しています。
デリバリーをした事のある人なら想像つくと思いますが、デリバリーをする事で、その場で行って消費する時と比べてゴミをはるかに多く排出します。
箸、プラスチック製のスプーン、プラスチック製の容器、竹串、アルミホイル、そしてプラスチック袋などが代表的なフードデリバリーで排出されるゴミです。
そして、それらのほとんどは、食事で汚れてしまったため、経済的にもリサイクルできないゴミへと追いやられているのです。
中国の国家郵政局(State Post Bureau)が発表した5カ年計画には、特にこのテイクアウトのゴミを集中的にターゲットにしています。それは、20205年までに、バイオ分解できない製品の使用と生産、使い捨てプラスチック製の箸やフォーク、スプーンといったカトラリーを禁止するという内容です。
なのでバイオ分解可能素材を使うことはこれらの解決方法の一つだと考えられています。
美团と饿了吗のアプリでは、ユーザーがオーダーする際、カトラリーが必要かどうかを選択できるようにしています。
ただ、これについては筆者の経験上か言うと、カトラリー不要と選択してもついてくることが多く、そこまで確認する時間もなく機械的に全部のオーダーに対してカトラリーをつけているといった店舗が多くありました。
またこれらのプラットフォームでは、食材廃棄を減らすため、分量や使用されている材料など、詳細情報をユーザーがきちんと得られるようなアプリの設計になっており、売り手側にできるだけ詳細な情報を提供するようにガイダンスしています。

飲食業界の取り組み

飲食業界でも、いくつかのレストランはすでに対策を講じています。
KFCやピザハットを運営するYum China Holdings(百勝中國控股有限公司)では今後5年の間に、紙製のストローやバイオ分解可能な包装の仕様に切り替え、環境に害を及ぼすプラスチックの使用を1/3カットすると宣言しています。
マクドナルドは、北京でお客から要求がない限り、ストローの提供をやめる、大々的なアナウンスをしたり
そしてそれは、ストローがなくても飲みやすい蓋のデザイン改良にまで影響を及ぼしました。
スターバックスでは、2020年にストローの使用を完全にやめました。もちろん、これは中国全土での話ではなく、公式サイトでも公表されているように、スターバックス全体で行われました。
https://stories.starbucks.com/press/2018/starbucks-to-eliminate-plastic-straws-globally-by-2020/
また、中国では、オーダーした食べ物を残す事が礼儀とする文化背景もあり、食品ロスが飲食業界での深刻な問題となっていました。そこで政府は、レストラン側は、過剰に残した消費者に対して、罰金を請求できる政策を打ち出しました。こうする事で、過剰なオーダーを防ぎ、食品ロスを減らす狙いです。
だが、これらのような政府や民間機関による政策努力は、反対に成長を続ける業界に効率的に取り組むには、さらなる個人レベルでの意識改善などの努力が必要になるかもしれません。
生活コミュニティーでの取り組み

2017年には、2020年までに35%の都市ごみをリサイクルすると宣言し、家庭ゴミの分別に関する法律を制定しました。しかし、公的なデータは公開されていないが、この取り組みははあまり進んでいないようです。
中国のゴミ分別は生活コミュニティーごとに行われます。各コミュニティー毎にゴミ回収場所が設置されており、コミュニティーのメンバーがそのコミュニティーで生み出されたゴミを分別し、リサイクルできるゴミは地域のリサイクルセンターに売られるようです。リサイクルできないものに関しての終着点は埋立地か焼却されます。
筆者の住んでいたコミュニティーでは、残念ながら分別はルールとしてあるものの、きちんとされておらず、コミュニティーメンバーの人が、ほぼフル稼働で分別を行っていました。ゴミを捨てる時間なども決まっておらず、分別する規定はあるものの、あまり守られている状況とは言えませんでした。
面白いのが、どんなゴミも気軽にいつでも捨てられる状況のため、捨てたゴミの中から、使用できるものなどは、ゴミを捨てにきたほかの人が見つけて勝手に持っていってOKという暗黙のルールができていました。私も引っ越しのため色々ゴミを捨てた経験があり、その後どうなるのかと見ていたのですが、使えそうなものは勝手にほかの住人が持っていってくれました。
一方で、ゴミの分別に対してすごく厳しい地域もあり、捨てる時間まできっちり決められており、その時間にならないとゴミのボックスが出されないコミュニティーもありました。
特に上海では、不当なゴミ捨ては罰金に値すると言う規定があり、ゴミの分別には厳しいようです。

日本はゴミに関してのルールはとても厳しく、粗大ゴミは粗大ゴミ回収所に持って行くか、3ヶ月に一回くらいしかない粗大ゴミの日に出さないといけません。もし勝手に捨てたりしたら、ゴミを探られるかして所有者を特定され、非難追求されます。
ほとんどのコミュニティーでは、分別用のゴミ箱が配置されているにも関わらず、習慣を変えない人が多く見られるのが現状です。筆者も実際住んでいたときに、分別されていないゴミをよくみかけました。
今後、政府の政策もあり、環境に配慮した取り組みが各業界で行われて行くと考えられますが、国民一人一人の習慣や意識の改善にまで影響を及ぼせるかどうかが今後の課題ではないかと考えられます。
参考動画