「中国人」と聞いて、どんな人たちを思い浮かべるでしょうか。
漢字を使い、中国語を話し、いわゆる中華料理を食べる——そんなイメージを持つ人は少なくないはずです。
けれど実際に中国という国に目を向けると、そのイメージだけでは説明しきれない世界が広がっています。
中国には、漢民族だけでなく56の民族が暮らしており、その違いは歴史や文化の話にとどまらず、今の暮らしや食文化の中にもはっきりと残っています。
中国をより立体的に知るための入り口として、「民族」という視点から見てみると、これまで見えていなかった“もう一つの中国”が浮かび上がってきます。
中国では「民族」が今も身近な存在

中国の民族は、単なる文化的な分類ではありません。
実は中国人の身分証やパスポートには「民族」という項目があり、漢民族なのか、ウイグル族なのか、チワン族なのかが明記されています。
つまり民族は、過去の歴史の話ではなく、今も人々の生活の中で自然に意識されているアイデンティティのひとつです。
旅先で「自分は◯◯族だよ」と自己紹介されることがあるのも、中国ではごく普通の光景です。
この感覚は、日本で生活していると少し新鮮に映るかもしれません。
中国には56の民族がいる|漢民族と少数民族、日本人は大和民族?

中国政府の分類では、中国には56の民族が存在します。
- 人口の約9割を占める「漢民族」
- 残りの約1割を構成する55の「少数民族」
「少数民族」と聞くと、人数がごくわずかな集団を想像しがちですが、実際には何百万人、時には一千万人を超える規模の民族もあります。地域によっては、少数民族が多数派として暮らしている場所も珍しくありません。少数民族というと、常に民族衣装を纏っているのかというと、そういうわけではありません。私が働いていた中国の会社でも少数民族の同僚がいたりして、「実は私〇〇民族」なの、と言われ後で知ることも多くあります。なのでごく普通に出会うことが多々あります。特に中国の南西部や西部では、民族の多様性を日常の中で強く感じることができます。
ちなみに、中国人から見ると、日本人は「大和民族(やまとみんぞく)」と呼ばれることがあります。これは失礼な表現というわけではなく、中国における民族分類の考え方から来るものです。
中国では、人々を「国籍」だけでなく、歴史的・文化的な背景を持つ集団=民族として捉える意識が強くあります。
そのため、日本人も「日本国籍の人」というより、「大和民族を中心とした民族集団」として認識されることが多いのです。
「大和」という言葉は、日本の古代国家や文化の中心だった地域名に由来し、中国では教科書や歴史書の中で、比較的早い段階から日本人=大和民族という表現が使われてきたからです。
少数民族が多く暮らす地域
少数民族は中国各地に点在していますが、なかでも民族色が濃いのが以下の地域です。
| 民族名 | 主な地域 | 食文化の特徴 | 人口目安 |
|---|---|---|---|
| 漢民族 | 中国全土 | いわゆる中華料理のベース | 約13億人 |
| チワン族 | 広西チワン族自治区 | 発酵・酸味のある料理 | 約1,900万人 |
| ウイグル族 | 新疆ウイグル自治区 | 羊肉・ナン・香辛料 | 約1,200万人 |
| ミャオ族 | 貴州省など | 保存食・燻製文化 | 約1,100万人 |
| 回族 | 中国各地 | ハラール食文化 | 約1,100万人 |
| 朝鮮族 | 東北地方(吉林省など) | キムチ・冷麺など発酵文化 | 約180万人 |
雲南や貴州は山が多く、地域ごとに文化が分かれて発展してきました。
新疆はシルクロードの要衝として、漢民族とは異なる文化圏の影響を強く受けています。
こうした地理的・歴史的背景が、民族の多様性につながっています。
私が雲南省へ行った時は、滞在先が山岳地域で少数民族のみが住む集落でした。滞在中、地域のお祭りに参加したことがあり、民族舞踊のパフォーマンスを見たり、地域の子供達と触れ合うことができました。実際に訪れてみると、より深く少数民族の文化を体験できる機会がああると思います。
👇実際に行った時の様子はこちらの記事で書いてます
代表的な中国の少数民族
中国には多くの民族がありますが、すべてを覚える必要はありません。
まずは、旅や食文化で触れやすい代表的な民族をざっくり知るだけでも、中国の見え方は大きく変わります。
| 民族名 | 主な地域 | 食文化の特徴 | 人口目安 |
|---|---|---|---|
| 漢民族 | 中国全土 | いわゆる中華料理のベース | 約13億人 |
| チワン族 | 広西チワン族自治区 | 発酵・酸味のある料理 | 約1,900万人 |
| ウイグル族 | 新疆ウイグル自治区 | 羊肉・ナン・香辛料 | 約1,200万人 |
| ミャオ族 | 貴州省など | 保存食・燻製文化 | 約1,100万人 |
| 回族 | 中国各地 | ハラール食文化 | 約1,100万人 |
| 朝鮮族 | 東北地方(吉林省など) | キムチ・冷麺など発酵文化 | 約180万人 |
※この一覧をもとに、民族と食文化の違いをまとめたインフォグラフィックをここに掲載予定
この表を見るだけでも、「中華料理」という言葉の幅広さに気づくはずです。
民族ごとに違う「食」の世界

民族文化の違いが、もっとも直感的に伝わるのが食文化です。
中国の民族文化の違いが、もっとも直感的に伝わるのが食文化です。
地域や民族ごとに、使う食材も、味付けも、食事のスタイルも大きく異なります。
ウイグル族|羊肉と小麦が中心の食文化
新疆ウイグル自治区に暮らすウイグル族の食事は、日本人が思い浮かべる「中華料理」とはかなり印象が異なります。
主食は米よりも小麦で、ナンや手打ち麺が食卓の中心。
そこに、羊肉を使った料理が頻繁に登場します。
代表的なのが、羊肉を串に刺して焼いたカワプ(羊肉串)や、羊肉と野菜を炒めた手打ち麺料理ラグメン。
香辛料にはクミンがよく使われ、脂のある羊肉でも重く感じにくいのが特徴です。
この食文化は、ウイグル族が遊牧文化やイスラム文化の影響を受けてきた歴史と深く結びついています。
同じ中国でありながら、中央アジアに近い食の世界が広がっているのです。
チワン族|酸味と発酵が生きる食卓
一方、中国南部の広西チワン族自治区に多く暮らすチワン族の食文化は、ウイグル族とは対照的です。
高温多湿な気候の中で発展したため、発酵や酸味を生かした料理が多く見られます。
魚や野菜を発酵させたスープや漬物、ほどよい酸味のある料理は、食欲を刺激し、暑い地域でも食べやすい工夫のひとつ。なかでも「酸湯魚」に代表される酸味のある料理は、高温多湿な広西の気候の中で育まれてきた、チワン族ならではの食文化といえます。
旅しなくても、食から民族文化に触れられる
少数民族の文化に触れるために、必ずしも現地まで旅をする必要はありません。日本にある中国料理店や中華食材店、レシピ記事を通じても、料理という入り口から民族文化を感じることができます。
「中華料理」と一言でまとめてしまうのは、少しもったいない。
背景にある民族や地域を知ってから食べると、同じ一皿でも感じ方が変わってきます。
旅行者は民族文化にどう出会う?

実際に中国を旅すると、民族文化は特別な場所だけにあるわけではないことに気づきます。
- 市場やローカル食堂で出会う料理
- 日常の服装や生活習慣
- 観光地にある民族村
こうした場面を通じて、生活の延長線上にある民族性に触れることができます。派手な演出よりも、日常の中にある違いこそが、中国旅の面白さです。
まとめ:中国は「民族」を知る奥深い世界が見えてくる
中国を理解する近道は、漢民族だけを見ることではありません。
56の民族と、その食文化に目を向けることで、旅も、グルメも、何倍も面白くなります。
「中華料理」や「中国文化」という大きな言葉の裏側には、地域ごと、民族ごとに積み重ねられてきた暮らしや価値観があります。
民族という視点を少し意識するだけで、中国の街の景色や、食卓に並ぶ料理の見え方は変わってきます。
一つの国でありながら、これほど多様な文化が共存していることこそが、中国という国の奥深さなのかもしれません。





