中国のローカルブランドを見ていると、ここ数年で、ある違和感を覚えるようになりました。
それは、「中国らしさ」を前面に押し出していないブランドが、確実に増えているという点です。
かつての中国ブランドといえば、分かりやすい漢字ロゴや赤を基調とした配色、伝統的なモチーフを大胆に取り入れたデザインが主流でした。
一目で「中国的」と分かる表現は、当時の空気感ともよく合っていたと思います。
ところが最近、中国の都市部で見かけるローカルブランドには、派手さよりも静けさ、主張よりも余白を感じさせるものが増えてきました。
一見すると目立たない。
けれど、なぜか記憶に残る。
そんな中国ブランドが、静かに存在感を増しているのです。
👇中国・アジアブランドに関してこちらでまとめています
国潮ブームと、その次に来ているもの

数年前、中国では「国潮(Guochao)」と呼ばれるブームがありました。
中国の伝統文化や歴史的モチーフを、現代的なデザインやプロダクトに落とし込む動きです。
漢字や赤色、龍や伝統文様などは、中国人としての誇りやアイデンティティを視覚的に表現する手段でした。
この流れは、中国ブランドが自信を取り戻す過程として、自然で意味のあるものだったと思います。
ただ、最近のローカルブランドを見ていると、その延長線上とは少し違う表現が増えてきています。
「誇示する中国らしさ」から、あえて一歩引いた距離感。
国潮を否定するのではなく、その次の段階として、表現が成熟してきたように感じられます。
「東方美学」とは何か

こうした変化を言語化する際に、しっくりくる言葉が「東方美学」です。
ここで言う東方美学とは、中国的な価値観や伝統をそのまま再現することではありません。
歴史を語ったり、文化的背景を説明したりすることが目的でもありません。
キーワードとして挙げるなら、
余白、静けさ、中庸(無理のない距離感)、生活感。
デザインや香り、パッケージといった、日常に近い表現の中で、
中国的な感覚が、意図せずににじみ出てくる。
そんな美意識を指しています。
主張しすぎない。
語りすぎない。
けれど、使い続けるうちに、その背景にある感覚が自然と伝わってくる。
この距離感こそが、いまの東方美学の特徴だと感じます。
なぜ今、中国で「東方美学」の感覚が生まれているのか

この動きは、単なる流行というよりも、中国の都市生活そのものの変化と結びついているように思います。
都市部では生活のスピードが上がり、情報量も圧倒的に増えました。
その中で、若い世代を中心に、派手さや分かりやすさよりも、心地よさや落ち着きを求める感覚が広がっています。
また、この美意識は、海外トレンドをそのまま取り入れたものではありません。
外から与えられた価値観ではなく、中国の生活者の感覚が成熟した結果、内側から自然に生まれてきたものに見えます。
「見せるブランド」から、「寄り添うブランド」へ。
この変化は目立たないものの、確実に進んでいます。

「東方美学」を取り入れたブランドの拡がり

東方美学の特徴は、特定のブランドやジャンルに限定されていない点にあります。
むしろ、日常に近いプロダクトほど、この感覚が自然に表れています。
たとえば香りの分野では、強く主張する香水よりも、
空間や気分に静かに寄り添う設計が増えています。
「つける」よりも「漂わせる」ことを意識した香りは、その代表例です。
キャンドルやお香、ルームフレグランスなどの生活雑貨でも、装飾を抑え、余白を重視したデザインが目立ちます。視覚的なインパクトよりも、生活の中で違和感なく馴染むことが優先されています。
スキンケアやコスメの分野でも、派手な演出や即効性より、肌や身体との無理のない距離感を大切にする商品が増えてきました。
こうしたプロダクトに共通しているのは、「中国らしさ」を見せることを目的にしていない点です。
生活者に寄り添う中で、結果として東方的な美意識がにじみ出ている。
それが、いま都市部で広がっている東方美学の姿だと感じます。
東方美学は「輸出される文化」ではない

東方美学が興味深いのは、それが外に向けて説明される文化ではない点にあります。
中国人同士で共有されている感覚を前提としているため、
あえて語らず、説明せず、余白を残す。
その姿勢が、結果的に静かな洗練につながっています。
海外向けに誇張されることなく、生活の中で自然に育まれている美意識。
そこに、いまの中国ローカルブランドの強さがあるように感じます。
中国ローカルブランドを見る視点が変わる
この背景を知ると、中国ブランドの見え方も少し変わってきます。
ロゴや色使いだけで判断するのではなく、
生活の中でどのように使われているのか。
どんな場面で、どんな感情に寄り添っているのか。
デザインの強さよりも、馴染み方を見る。
そんな視点を持つことで、中国ローカルブランドは、より立体的に見えてきます。
まとめ|東方美学は、静かに広がっている
東方美学は、トレンドとして派手に語られるものではありません。
けれど、中国の都市生活の中で、確実に根付き始めています。
中国のローカルブランドを見る際の一つの軸として、
この「静かな美意識」を意識してみると、
これまでとは違った中国の姿が見えてくるかもしれません。
今後は、こうした東方美学を体現するブランドを、
個別に紹介していきたいと思います。


